世界のみなさん、落ち着いて聞いてください

































































 今日でこの世界は滅亡します























































































 いつもの変わらない朝



 寒さのせいで布団の中で眠気と闘いながら

 ゆっくりと布団を出て

 いつものようにテレビをつける





















 ただ唯一違うのは明日がクリスマスイブだということ











































 「…う、そでしょ?」





 ぼーっとしている頭に突如入ってきた

 震えているアナウンサーの声







 寝起きの私の頭には何の事だか全然理解できなかった











































 今日…? 世界… …滅亡?







 だんだんと覚醒してきた頭で必死に考える



 とりあえずリモコンでいろんなチャンネルに変える













 「なんで…?」






 普段なら子供向けの番組をやっているチャンネルや

 時間的に芸能ニュースを扱っているチャンネルも

 全て同じ内容をとりあげていた











































 『クリスマスイブの明日に日付が変わるとき、この世界は滅びます』











































 PiPiPiPi





 後ろで携帯が音をたてる



 テレビの画面から目を離さないまま携帯をとり

 通話ボタンを押した











































 『!?お前今どこにいる!!?』





 機械の向こうから聞こえてくるのは愛しい彼の声



 それでも私は言葉を返すことができなかった















 『!!聞いてんのか!?』





 「…あ、かや」















 やっとのことで絞り出した声はきっと震えていただろう



 電話越しの赤也も確実に声が裏返っていた















 『、お前今家だよな?』



 「う、ん」



 『今から行く。絶対に家から出るなよ』





















 そういって切れた携帯からは無機質な機械音しか聞こえてこない



 ふるえる手で携帯を閉じた後、その場にうずくまった

































































 ピンポーンピーンポーン













 10分ほどしただろうか


 チャイムが連続して鳴った







 震える足で起き上がり玄関へ向かった





















 ガチャ









 「!?」





 玄関のかぎを開けたとき崩れるように座り込む私を

 赤也が支えてくれた











































 赤也に支えてもらいながらリビングに入った私たちは

 ソファーに座った











































 「…、落ち着いた?」



 あれから数分後、赤也が尋ねてきた







 「…うん」



 「そっか」











































 「…テレビ、見たんだよな?」











 なかなか会話が続かない私たち



 その沈黙を破った赤也













 「うん、世界が滅んじゃうんでしょ?」



 「そうみたい…だな」











































 「折角明日はクリスマスイブなのにね」







 苦笑しながら言った私を赤也が抱きしめてきた



















 「ずっと一緒にいるから」











 そういった赤也からは

 いつもの強気で短気な彼は見れなかった











 そのさみしそうな赤也の背中に私も手をまわした











































 「…もうしょうがないんだよね、決まっちゃったことだし」



 何十分も抱きしめあっていた時、私は何かが吹っ切れたように

 そう繰り出した





 「?」



 「だってそうじゃない。どうあがいてもイブになるときに

  この世界は終わっちゃうんでしょ?」



 「…そうだな…」



 「…ならいつまでも落ち込んでられないじゃない」



















 よいしょっと立ち上がった私は「んーっ」と伸びをして

 「だから…」と、いつものような笑顔で赤也の方を見た



















 「思い出、つくろう?」



















 そういった私に赤也はいつもの無邪気な笑顔を向けてくれた

































































 その後午前中は、お世話になった先輩方に電話をして

 別れのあいさつを言った





 先輩達は誰一人直接会おうなんて言ってこなかった



 彼らも私と赤也のことを知っているから

















 『2人の時間、大切にね?』

















 そう幸村先輩から言われた時は我慢しきれず大声で泣いてしまった







 なんていい先輩をもったんだろう…と











































 午後は赤也とゆっくり私の家で過ごした


 テレビはつけずにただ2人の声だけが家の中に響き渡っていた







 テニスの話、先輩達の話、そして私たちの思い出話











 ずっと話していたのに一度も話が途切れることもないまま夜を迎えた







































 「…ねえ赤也、こんな星がたくさんある空をみてると

  これから起きることが嘘みたいだよね」



 「あぁ…そうだな」



 「私たちも明日にはあそこで宇宙を見渡してるのかな」



 「…多分な」



























































 「ねぇ赤也?」









 しばらく空を見上げたまま黙っていたが

 私の口は勝手に動いていた









 「何?





























 「…抱いて?」











































 ギシッとベッドがきしむ音がした











































 外からは自棄になって殺人を犯している人の声や

 それから逃げようとする人の声



 泣きわめいて、ありったけの声で叫んで

 自分を見失っている人の声









 いろんな音の世界が広がっている



























 でも私たちには関係ない



 お互いの声とお互いの鼓動の音しか聞こえない

















 それだけでとっても幸せだった







































 今思えば私が心から望んでいたから出ていた言葉なのかもしれない





 初めての経験が世界と人生の最期の夜って言うのもなんだか幸せじゃない?







































 事後、ベッドで二人で向かい合って寄り添っている私達









 時計なんて目に入らない



 だから今何時なのかもわからない





 きっとそろそろ世界の終わりが近付いて来ているのだろう







































 「私ね、とっても幸せ」



 「俺もだよ、







 やわらかい笑顔で返してくれた赤也

 それに私も笑顔で返す



























































 急に窓から眩しすぎる光が部屋に入ってきた



















 その瞬間見えた赤也の顔と

 聞こえた赤也の声









 私はこの胸にしっかりと刻んだよ







































 薄れゆく意識の中



 ただ私は貴方の体温だけを感じていた

















































































 ─ メリークリスマス、































     愛してる 



















END