知ってるよ

 もう少ししか生きられないってこと



 それでもその残された時間を

 大切に生きなきゃいけないんだ



































 ある日突然襲ってきた眩暈



 マネージャー業をしていた最中のことだった



































 『もう長くは生きられないでしょう』







 あの後急いで病院に運ばれて検査を受けた

 そして医師に宣告されたものは

 15歳の私にとってとても理解しがたいものだった



























































 いつものように病室のベットの上から窓の外を眺める

 外からこの病院に入院している小さな子たちの笑い声が聞こえる



 そしてそろそろ全て散ってしまうであろう桜の花びらを眺めていた









 その様子をしばらく見たあと

 ベットの上の机に置いてある1冊のノートを見た



 これは私があの死の宣告をされた時から書いている日記

 そのノートももうあと少しで使い切ってしまう





  ─ 新しいの買ってもらわなくちゃな…





 そう思いつつ今日の分の日記を書いた





















































 書き終わってベットの横の棚の中にしまったとき

 そのタイミングを見計らったように

 病室のドアが開いた

























 「ちーっす!!」





 真っ先に目に入ったのは元気よく手を挙げてる赤也

 その後ろから花束を持った仁王やお菓子をもったブン太など

 精市以外のレギュラー陣が入ってきた









 「皆!!いらっしゃい!!」



 それを笑顔で迎える私


 これがいつもの風景







































 「それでさー、赤也ってば真田にボール当てちゃってさー」



 「『たるんどるー!』って殴られてたのぅ」













 これもいつものこと

 その日にあったことをきめ細かく報告してくれる



 今日は部活中ぼーっとしていた赤也が打ったボールが

 運悪く真田に当たったらしく殴られたらしい









 「ちょっと先輩達!!その話はやめてくださいよ!!」



 真剣に止めに入る赤也

 微かながら頬が赤い









 「なんじゃ赤也、恥ずかしい姿をに知られとぅなかったんか?」



 あたりまえじゃないっすかー!!!

 そういって否定する赤也





 それにまたブン太も参加してぎゃーぎゃー騒ぐ始末

 結局真田に一喝されて終わったけど







































 いつまでもこんな日々が続けばいいのになって

 頭では無理だってわかってるのに

 心のどこかでは願ってしまう自分がいる















 そして彼らが帰った後は必ず精市が来る







































 「どう?調子は」

 「うん、大丈夫だよ」

 「そっか、よかった」



















 そう言っていつものように持参してきた本を読み始める

 精市はいつも私が1人で寂しい思いをしないように

 そばにいてくれる



















 それに精市も感じているんだろう

 彼も一回は死を彷徨った経験があるのだから

 私が生きられるのももう僅かだってこと









































 「ねぇ精市?」

 「ん?どうしたの?」





 今まで読んでいた本から目を離し私の方を見た







































 「死んだらどうなるんだろう」































 深刻な話だと察したんだろう

 読んでいたところにしおりを挟みベットに置いた











































 「私はね天国なんてないと思う」





 「天国ってものは生きてる人間たちが勝手に作り上げた理想の世界」





 「だから死んだ人がどういう理想を持っているかによって死後の世界って違うんだと思う」

















 自分でもまとまってないことを言っているのはわかっていた

 でも本当に天国はない気がして

 死んでもみんなのそばにいられる気がして



























 少しの沈黙の後、精市が口を開いた





















 「確かにそうかもしれないね」





 「実際に亡くなった人が天国があると言ったわけではない」





 「それは生きてる俺らには当分わからないこと」





 「でも…俺は天国はあると思う。

  が言ったように一人一人死後の世界に

  どんな理想を持っているかによって違うのならば

  その1人1人が描いた理想こそがその人にとっての天国なんだよ」 









































  ─ だからは俺らのそばにいるよね?













 そう優しく問いかけてきた精市の表情は

 今までにないくらい優しく温かい笑顔だった













 「うん。私の天国は皆のそばだ!!」













 そう笑顔で返せば優しく抱きしめてくれた





 あぁ…温かい



 これが生きている人の温もりなんだ









 ずっと感じていたかったな























































































 「また明日」





 そう言って去って行った精市













 それを笑顔で見送ったとき、急激に眠気が襲ってきた
















 私ももう寝よう





 起こしていた体をゆっくりと横にした。






















 明日は何の話が聞けるのかな



 そう思いながら



































  ─ おやすみ…























































































 桜の木が最期の花びらを散らせた  























































































 end